Aggression 侵略 (連載第498回)

 "Putin is the aggressor. Putin chose this war." (プーチンは侵略者だ。プーチンがこの戦争を選択した)―米国のバイデン大統領がテレビを通してこう演説したとき、ロシア軍(以下「露軍」)はすでにウクライナへの侵攻(invasion)を開始していた。隣国ベラルーシと共同軍事演習を繰り返し国境に兵力を集結していたロシア(「露国」)の侵攻は前々から危惧されていたが、プーチン氏が2月24日、ビデオ映像で「特別な軍事作戦」、その実は開戦を宣言した直後に露軍がウクライナ各地をミサイルで攻撃し地上部隊を展開した。

 露国はウクライナ東部2州の分離独立派(separatist)が占拠する地域の「独立」を承認し、その地域住民の保護を口実にしたが、何処の侵略者にせよ「隣国の領土(資源・工業地帯)が欲しいから武力攻撃する」などと正直に言う訳もなく、大方は同胞の保護を名目に侵攻するものだ。露軍が首都キエフまで攻撃、進軍した以上、それは侵略(aggression)としか言いようがない。現時点でキエフのほかウクライナ主要都市を攻撃している露国政府はウクライナが非武装化、中立化の要求に応じない限り停戦(ceasefire)には応じないというが、これは相手の喉元に匕首を突きつけて(否、すでに突き刺してから)交渉に応じよと言うに等しく、強盗の言い分と何ら変わりない。さらに核兵器の行使をもちらつかせながら外国の軍事介入を牽制したプ氏の暴挙は国連安保理常任理事国の指導者としても完全に常軌を逸している。彼には彼の理屈があるのかもしれないが、全く正当化し得ない(unjustifiable)。核兵器を含む強大な軍事力を保有する大国が外国を脅して意のままに従わせるやり方がまかり通れば、国際秩序は崩壊し世界は暴力が支配する暗黒時代に突入する。このままでは良くて長期冷戦の再来、悪くするとウクライナやその周辺地域の戦争の泥沼化、ひいては…その先はもう考えたくない。

 この侵略戦争に対して世界中の政府や民間組織、心ある一部の露国民を含む一般市民が平和の回復を求めて立ち上がった。正義と秩序を希求する諸国政府は相次いで対露経済制裁とウクライナ支援を表明、スポーツ・文化団体は露国内でのイベント開催や参加を拒否、さらに名も無き多くの市民が街頭やネット空間で戦争反対(No War)の声を上げている。良識ある人々が戦争以外のありとあらゆる手段を駆使して侵略者と戦っていることに少しでも希望を見出したい。

(『財界』2022年4月6日号掲載)


※掲載日:2022年4月26日
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