Propaganda 謀略宣伝 (連載第499回)

 ウクライナ侵略戦争の開戦前からロシア(以下「露国」)政府の報道発表や外交官の発言は欺瞞に満ちていた。首都キエフに進攻する意図は無いとか、ウクライナが核兵器や生物兵器の製造を企んでいたとか、病院や原発への攻撃はウクライナ側が仕組んだテロだとか、よくもあれほどの嘘(lie)を次から次へと並べられるものだ。

 報道機関や現地からの情報に自由に接している我々はその種の偽情報(disinformation)がプロパガンダ(propaganda, 謀略宣伝活動)の一部だとすぐに分かる。しかし露国内では情報が統制されていて、国民は政府に都合の良い情報しか知らされない。露国はもはやソ連時代の全体主義体制に逆戻りしてしまった。戦争が長引けば長引くほど露国は鎖国状態が続き、世界経済や国際社会から取り残されるだろう。露国民にとってそれが賢明な道とは到底思えない。

 戦時の情報戦(information war)はどの国でもやることだが、偽情報、近頃の言葉で言うフェイクニュース(fake news)の嘘があまりにも見え透いていると、国際社会や取引相手の信用をますます失いかねない。嘘をついて相手を出し抜く手口は、その嘘がもっともらしく見えないと逆に墓穴を掘る。

 その反面、嘘であっても繰り返し言い続けることで真実に変わるとする所説もある。かつてナチスドイツの独裁者(dictator)アドルフ・ヒトラーは、大衆は大きな嘘に騙されると喝破したと伝えられるが、彼はそれを実践して権力を手中にした。ナチス政権は低価格のラジオ受信機の供給や大衆動員イベントなどの手段を駆使してドイツ国民を洗脳し、ユダヤ人を差別弾圧した挙句に国全体を戦争の惨禍に引きずり込んだ。インターネットが遍く普及した今日の世界は当時とは状況が大きく異なるとはいえ、ネットの情報をも遮断する国民総監視体制を構築した全体主義国家では今も国に統制された情報が人々の日常生活や考え方を支配している。

 第三国の一般市民をも巻き込んだ謀略宣伝合戦は怖い。諸国民の間に敵意(hostility)を植え付け、戦争を肯定させようとする。露国の軍事侵攻を客観的な視点から見ようとするのは結構だが、相手にも非があるなどという喧嘩両成敗的な主張は完全に筋違いだ。侵略戦争は絶対悪であり、仕掛けた方が100パーセント悪い。侵略国やそれに与する不埒な輩の嘘や主客が転倒した牽強付会の説に踊らされないように気を付けたい。

(『財界』2022年4月20日号掲載)


※掲載日:2022年4月26日
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