No War 戦争を止めろ (連載第500回)

 ウクライナの軍事・民間施設を無差別にミサイルや砲撃で破壊し非戦闘員(non-combatant)をも殺戮、拘束してきたロシア軍(以下「露軍」)は侵攻開始後1ヵ月も経たないうちに補給の弱さや兵の練度と士気の低さを露呈、複数の将官を含む戦死者が続出して戦略の見直しを余儀無くされている。対するウクライナ軍は祖国防衛の大義の下ますます士気が上がり、携帯型の対戦車・対空ミサイルやドローンを操って露軍の戦車や航空機を多数撃破、鹵獲(ろかく)しているという。

 情報戦ではウクライナが圧倒的優位に立っている。ゼレンスキー大統領は各国議会でオンライン演説を挙行、平和の回復と支援を訴えて支持を集めた。自国の国益ばかり訴え大量破壊兵器の存在を示唆して恫喝を繰り返すプーチン露政権とは対照的だ。時代錯誤的な侵略戦争を止めようとしない露国は孤立を深めるばかりで、このままではソ連以前の閉鎖社会に戻りかねない。

 ツイッターなどのSNSではウクライナを支持する声が広がっている。一方、この国の不見識なテレビ解説者(TV commentator)や元政治家の中には、侵略に敢然と立ち向かうウクライナ国民に向かって無駄に戦うなとか双方に非があるとか発言して顰蹙を買っている輩がいると聞く。安易な宥和政策(appeasement)や敗北主義(defeatism)が誤ったメッセージとして独裁者に伝わり侵略を増長することは歴史が証明している。

 核武装(going nuclear)など非現実的な論を唱える向きも相変わらずあるようだ。核兵器体系というものはICBM(intercontinental ballistic missile, 大陸間弾道ミサイル)や非脆弱性の高い(highly invulnerable)SLBM(submarine-launched ballistic missile, 潜水艦発射弾道ミサイル)搭載原潜など多角的な運搬システム(delivery system)を維持運用するのに莫大なコストがかかる。その意思も能力も無い国が核爆弾を数発持っても抑止効果を期待できるどころか周辺国の警戒心や核拡散、核戦争の危険を徒に増大させるだけだ。

 ウクライナの人道危機は深刻だ。国内外の避難民(refugee)は1千万人、実に同国の全人口の4分の1に達しており、それを受け入れる周辺国の負担は日に日に増えている。いま我々人類がすべきは、戦争の被害者に支援の手を差し伸べ、戦争を一日も早く止めるように手を尽くすことだ。このまま長期にわたって戦火が収まらないと、欧州どころか全世界に累が及ぶことになる。

(『財界』2022年5月11日号掲載)


※掲載日:2022年5月25日
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