Battlefield 戦場 (連載第503回)

 露国の軍事侵攻を受けて本土が戦場(battlefield)と化したウクライナからは連日、凄惨な映像が流れてくる。私も言論人のはしくれとしてその現実に目を向けずにはいられない。

 偵察用ドローン(scouting drone)や身体装着型カメラ(body-worn camera)に録画されたそれらの映像を見ると、まるで第一次世界大戦の欧州戦線を舞台にした映画でも見ているかのような錯覚を覚える。塹壕(trench)や物陰から銃を撃ち、手榴弾(hand grenade)を投げる兵士の動作は一世紀前のフィルムに残るそれとほとんど変わらない。

 一方、戦場では米英製の対戦車ミサイル(anti-tank guided missile, ATGM)や自爆型ドローン(suicide/kamikaze drone)などの携行型兵器が威力を発揮している。前世紀は戦車(tank)に蹂躙されるばかりだった歩兵(infantry)は今やこの種の兵器で互角の戦いを展開しており、戦車や装甲車(armored vehicle)の数で圧倒的に優っていた露軍はすでに甚大な損失を被っている。

 なお、昨今の報道記事にはUAV(unmanned aerial vehicle, 無人航空機)という略語をよく見かけるが、それは小型の回転翼式ドローン(multicopter/multirotor drone)を含む無線操縦機や自律型航空機の総称だ。両者は同義語として使われることも多いが、近頃ではカタカナ語のドローンは後者のような小型の回転翼機を指すことが増えた。

 戦闘場面(combat scene)の中にはCG(computer graphics)で作ったフェイク映像(fake video)もある。戦場で実際に撮られた映像も、その多くは作為的な演出で撮影されたか情報の送り手に都合よく編集されたものだ。いずれにせよ、まずその真偽や製作意図を疑ってかかる必要がある。

 ウクライナ国民は自軍の動きが敵に知られないようにスマホ等で撮影した映像をSNSで公開しないように政府から要請を受けたという。一方、侵略軍の蛮行を世界に知らしめるべく公開された防犯/監視カメラ(security/surveillance camera)映像には丸腰の民間人を背後から銃撃する露軍兵の戦争犯罪が映った場面もあって、それを見た我々はまた怒りを新たにする。

 凄惨な映像を繰り返し見ると人によっては不安を覚え心身に不調をきたすこともあると聞く。そのようなリスクには配慮しながらも、戦争に反対する熱意を保つためには、このような戦場映像を冷静に見る機会がもっとあってもいい。

(『財界』2022年6月22日号掲載)


※掲載日:2022年6月22日
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