Wi-Fi ワイファイ (連載第505回)

 20年近くにわたってわが家のインターネット接続を担ってきたADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line, 非対称デジタル加入者線)サービスが来年1月に終了するとの通知が何度も届いた挙句の果てに私もようやく重い腰を上げてネット接続環境を一新した。

 旧式の設備をこれまで使い続けてきたのはいくつか理由がある。ひとつには、それで十分に事足りたからだ。導入当初から手頃な料金でブロードバンド(broadband, 大容量高速回線)接続を利用できた8Mbps契約のADSLは、ダウンリンク(downlink,下り方向)の実測値が概ね5Mbps台と今日の水準で見るとかなり低速だが、仕事で使うのは電子メールとネット検索くらいだし、パソコンで動画を見るくらいならその程度で十分だった。初期費用(initial cost)は低価格品のルーター(router)を買う程度で済んだし、月額数千円の維持費(running cost)も今の代替サービスと比べて安い。ネット常時接続(constant Internet access)にそれ以上の料金を払う気にはなれなかった。加えて、それに代わる固定回線サービスのセールスがあまりにもしつこいのにすっかり辟易した私は頑なにADSLを使い続けた。

 その後の技術の向上に伴い世間ではWi-Fi(wireless fidelity)接続して使う機器が続々と登場し、守旧派のわが家もオンラインミーティングやらネットワークカメラやらスマートスピーカーの類を利用するようになって、アップリンク(uplink, 上り方向)の通信速度が1 Mbpsに満たないADSLでは映像がフリーズするなどいささか不自由を感じ始め、この度WiMax 5Gの高速無線ルーターを導入することに相成った。通信速度が格段に向上した一方、ここまで待った甲斐あって月々の維持費も以前とさほど変わらない。

 とは言え、この先もスマート家電製品(smart home appliances)がますます増え、それらを自分で設定する手間を思うとどうも気が重い。数年後さらに年老いた自分がそういうことをやれるかどうか自信が持てない。お上のデジタル推進策にしても、パソコンやスマホを使い慣れない多くの高齢者の事情が本当に考慮されているのか甚だ疑問だ。通常の操作なら慣れればできても、導入時の複雑な設定や問題発生時のトラブルシューティング(troubleshooting)は独力では難しい。その辺りの配慮や工夫が十分に為されない限り、誰にも快適なデジタル化社会の実現には程遠い。

(『財界』2022年7月20日号掲載)


※掲載日:2022年7月27日
※このページの無断複写・転載は固くお断りします。
©Yoshifumi Urade 2022  All rights reserved.

inserted by FC2 system